『手織りの教科書』
2022-09-18
本屋さんでようやく受け取ってきました。彦根愛さんの『手織りの教科書』。
まず「はじめに」を見て驚きましたね。え、これ『手織りと手紡ぎ』『手織り工房』の加筆改訂なの!?全然違うよ!?と。
まあ内容面では勿論かぶっているところがありますが、構成も文章も変わっているし、掲載作品がおそらく全部新しい気がするんですけどね…。
個人的には『手織り手紡ぎ工房』の方がそれら2冊を改訂したものな気がしますが…。
とにかく、どれとも違うのでどれかを持っている方にも、この本は買って後悔することがないと思います。
内容は次の通り。
- 織機と組織図
- 織り機のいろいろ
ろくろ式・天秤式・レバー式(ボタン式)・ジャッキ式、バネ式の説明が載っています。今までの本にはジャッキ式、バネ式の紹介がなかったかと思います。『手織りの組織図事典』は掲載している組織図がジャッキ式用なので、ジャッキ式の写真も載っていますが、そもそもこの本では各織機の説明が一個ずつ載っているわけではありません。
あと、ここに「織り機の各部の名称(ろくろ式)」が載っています。これは『手織りの組織図事典』以外の本にも載っています。
- 織物に必要な道具と使い方
『手織り工房』で「付属の道具」、『手織り手紡ぎ工房』で「手織りのために必要な付属の道具」として書かれていたものですね。
個人的には「必要な道具」って書くと全部必要に見えるので好ましくないような気がしています。まあ、職業で織るには全部必要?なんですかね??(我が家にはないものがけっこうありました)- 道具
これまでの本と異なり、「基本の道具」「糸を準備するときに必要な道具」「織るときに必要な道具」に分けられています。基本の道具とその他の分け方の基準は…よくわかりません…。
あと、これまでの本には載っていなかった、粗筬(櫛筬)・櫛、熊手(ビーター、タペストリーフォーク)・すくい杼、ピック(棒)が載っています。 - 糸の準備(糸を使いやすくするための方法と道具の使い方)
「符割りの使い方」「かせくり機の使い方」「玉巻機」「手で糸を巻く方法(玉巻機や木巻を巻く道具がない場合や、大型のタペストリーの緯糸)」(バタフライより長い輪になるやつ)「はた結びの仕方(途中で糸がなくなったり、色を変えて整経を続ける場合のほどけない結び方」。『手織りと手紡ぎ』『手織り手紡ぎ工房』にも載ってますね。 - 緯糸の準備
板杼(中心に巻く方法)・板杼(片側ずつ巻く方法)・小管に糸を巻く、が載っています。
- 道具
- 織物の組織と完全意匠図
定番の組織とは、から組織図と完全組織の話。あと完全意匠図の話があって、この本での完全意匠図はこのように表しています、という話。
- 組織図から完全意匠図を作る方法
こちらも彦根愛さんの本では定番。組織図マクロを作るのにお世話になりまくりました。ろくろ式(単式タイアップの場合)と、天秤式・ジャッキ式の場合と、レバー式(ボタン式)の場合が載っています。ただ見慣れているせいか図が大きいせいか、今までの本の方が見やすい気がします。(『手織りの組織図事典』よりは詳しいです)
- 織りの三原組織
これも定番ですが、今までの本で一番詳しく書いてあるかな。とくに朱子織。
- 変化組織
変化組織の色々な作り方についての軽い説明と、平織の変化組織(たて畝織・よこ畝織・ななこ織)・斜文織の変化組織(山形斜文・破れ斜文・菱斜文・伸び斜文・曲がり斜文)・その他の変化組織(混合法で色々な組織を組み合わせて作る)を掲載。
- 織物組織の分解
布から組織図を起こす。『手織りと手紡ぎ』や『手織り手紡ぎ工房』にも載っていますね。気になる組織の布を見た時に参考に組織図を書きました。
- 織物の手順と計算
「平織のマフラーを織る」のをサンプルに、糸の計算から、準備して織って糸の始末をするまで、一通り書かれています。「4 整経した経糸を織り機に取り付ける」が、基本は整経台から男巻きに巻いて綜絖通し・筬通しの順みたいですが、途中に筬から織り機に取り付ける方法で筬通し→綜絖通し→男巻きに取り付ける方法が載っていて、ちょっとわかりづらかったです。
ここに参考作品として、整経絣のひざ掛けとビーズのケースが載っています。つまり、整経の時に経糸で模様を作っておくものと、緯糸準備の時にビーズを入れておくもの、という参考ですかね。
- 織り機のいろいろ
- 織物組織と技法
- 基本
- 縞を織る
基本作品で平織とななこ織の縞のクッションカバー。作品例として、たて刺し子のテーブルランナー・平織のクリアストライプマフラー・レップ織りランナー。
- 格子柄(チェック)を織る
基本作品でななこ織と斜文織の格子柄のマフラー。作品例として、よこ畝織とななこ織のカバー(枕カバーかな)・菱斜文のチェックマフラー。
- 織りサンプルから応用する方法
変化斜文24種のサンプル織りをして、その中から使う組織を決めて、基本作品のランチョンマット。作品例として、引き揃えモヘアのネックウォーマー・1/3のプリーツストール。
- 組織と色糸効果
色糸効果の考え方と、基本作品として、平織と斜文織の色糸効果サンプル。ほかにもサンプルデータが8種。作品例として、千鳥と崩し縞のショール・シャドーウィーブのラップエプロン。
糸を拾う・絡める- ピックアップ技法
経糸を拾うことで踏み木を踏んだのと違う組織を出す技法で、この技法により効果的に柄が出せる技法のうち、昼夜斜文と昼夜トルコ朱子のピックアップが例に挙げられています。作品例として、アーガイル文様のピックアップマフラー・ブロック柄のピックアップ斜文ショール。
- パイル技法(ノッティングとスマック)
絨毯やマットを織る技法で、ハイパイルのノッティングと、ローパイルのスマックが紹介されています。基本作品は小さなマット。作品例はノッティングのもみの木・レリーフノッティングマット。
- つづれ織
平織で色糸で文様を織り出しますが、その各種技法について紹介されています。基本作品はモンステラ(多分)柄の小さなマット。作品例はアンデスの神人文様・スウェーデン絵織りのタペストリー。
- 浮き織・織成・縫い取り
その昔この三つの差について頭を悩ませたことがあったなあ…本によって用語が違っていて…。それぞれの技法の紹介と基本作品として、それぞれを使った6種のしおり。作品例としえクラックル織の織成スカーフとムアマンのトートバッグ(ムアマンとは織り方の名称だそうです)・ハーフドカゴングのサコッシュ・縫い取りの針刺しとポーチ。
- フィンガーテクニックレース
半綜絖を使うレース織や組織によるレース織ではなく、指で操作するレース織で、スパニッシュレース・ダーニッシュメダリオン・ブルックスブーケ・クローズドシェッド・羅・開口させてもじるレースが紹介されています。基本作品は開口させてもじるレースのマフラー。作品例としてアルパカ模様の羅ストール・絣糸を作っての羅の暖簾・ミックスレースのマット。
特別組織- 吉野織
吉野織の種類と組織解説、吉野織の考え方と吉野格子について説明があります。作品例としてたて吉野のがま口バッグ・たてよこ吉野のパフマフラー・よこ吉野リネンクロス・吉野格子のブランケット。 - 摸紗織(模紗織)
どういうのを摸紗織というのかの解説と考え方が載っています。これによると、キャンバス・ハックレース・ブロンソンレース・スウェディッシュレースは摸紗織で、ハックアバック・スポットブロンソンは摸紗織ではないそうですが、ハックアバック・スポットブロンソンの完全意匠図もここに載っています。そのうえ、ピックアップ摸紗(3本ハックレース)と並んで、ピックアップハック(3本ハックアバック)の織り方も載っています。作品例は、森のハックレースのケースメント・すぅえディッシュレースのショール・ブロンソンレースのストール。
重ね組織- 刺し子織
ここでは英語で言うサプリメンタリーワープ・サプリメンタリーウェフトを刺し子織としているとのことで、この場合オーバーショットなどもよこ刺し子に入ります。基本作品はたて刺し子のテーブルランナー。作品例としてムンカベルテのファブリックパネル・ウォーブン絞りの巾着(絞り糸を緯糸に入れて織っておいて、織りあがり後に絞って染めて、絞り糸を外す)・オーバーショットのランチョンマット・ムックのファイルカバー(ムックとはラオス語でたて刺し子だそう)・たてよこ刺し子のマフラー。
- 二重織
二枚の布になるものと、袋織り、倍幅について説明されています。作品例は二枚の布になるのを利用した二重織L字ストール・袋二重バッグ&ペンケース。
- 二重織の応用
表裏を異なる組織にしたり、表裏をアンバランスなものにしたり、表裏を接結したりする考え方が紹介されています。作品例は、平織とななこ織の接結二重織のベスト・ヘリンボーンとチェックのストール・二重織と経浮き糸の格子柄マフラー。
- 風通織
二重織りの布の上下を一定の場所で入れ替えた織物。ピックアップ技法で風通織をすることで4枚綜絖でもできることが説明されています。私が教室でピックアップとして習ったのはどうもこれのような気がします。作品例として、たてよこ風通ブランケット・壁掛け小物入れ・ピックアップダブルのアンデス文様のペンケース・ピックアップシングルの雪の結晶マフラー。
- 風通絣
風通織と色糸効果を混合して絣のような柄を作る織り。考え方とサンプル11個(4枚綜絖5つと8枚綜絖6つ)が載っています。作品例として、風通絣のスクリーン・風通絣のマット。
- 畝織物
二重織を応用して畝が出る織物。たて畝ができるものがコードでよこ畝ができるものがリブというそうで、リブの一種がウェルトで、コードの一種がベッドフォードコード…?そこら辺がいまひとつよくわかりませんが、説明ではウェルト組織とベッドフォードコード組織の解説が載っています。作品例はベッドフォードコードのクッション・ウェルトのマフカラー・ムースタッチマフラー(たて畝と思われる)・ベッドフォードコードのバッグ。
パイル組織- パイル組織(添毛織物)
ここで紹介されているのは二重織り組織を応用したパイル組織。たてパイルとしてタオル組織(片面パイルと両面パイル)・ビロード組織、よこパイルとして別珍・コーデュロイ(コール天)の説明が載っています。作品例は、コーデュロイのツールバッグ・ぼかし染めパイルポーチ・ベルベットのチェアマット(特に説明ないですがベルベットはビロードですね)。
絡み織- 絡み織(捩子織)
ここで紹介されているのは半綜絖を用いた紗と絽(羅も解説には出てきますが、考え方は紗と絽のみ)。作品例は、紗と観音もじりのショール・市松絽のケースメント。
染めて織る- ほぐし絣織
仮織りをして染料で絵を描くように染めてから、本織りをするもの。基本作品は棉スカーフ。作品例として、吉祥文様ポチ袋・楕円柄ほぐし織半幅帯。
- 絣
たて絣・よこ絣・たてよこ絣の基本作品と制作手順。作品例で、崩し縞のよこ絣マフラー、よこずらし絣のタピストリー、バウンドウィーブの額(よこ絣)、矢絣のコースター、マット・ミー鳥文様のテーブルセンター(マット・ミーとはラオス語で絣だそう)。 - 着物・帯
基本作品として縞の着物。作品例として結び糸の着物・よこ吉野の名古屋帯地・縫い取りの名古屋帯。
- 縞を織る
- 糸染め/始末
- 糸染め
糸の種類と精錬方法・糸の種類と染料(化学染料)・イルガラン染料、デルクス染料で染色する方法(絹・ウール等)・シリアス染料の染色方法(綿、麻など)・酸性染料を使ってグラデーションに染める方法・酸性染料を使って刷毛染めをする方法(ぼかすように染める) - いろいろな始末
- 織物の仕上げ方法
- トラブルと対処法
- 使用糸一覧
- 表紙作品について
- 糸染め
…とにかく盛り沢山の内容ということはご理解いただけるかと…。
この内容紹介では目次に合わせて書きましたが、本文中には見出しの項目が小口にしかなかったり、小口にすらなかったりしてちょっとわかりにくいのが難点かな、と思いました。まあ全部に付けると、ページ数が増えたり、色々おさまらなくなるんでしょうね…。でも「表紙作品について」の見出しはさすがに欲しいかと…(目次にしかない…)。
ところで、各作品例については、ひこねあいさんのブログで、ひこねあいさんによるコメントが掲載されています。コメント読むと余計に色々織りたくなりますね…。
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